「AIが発達していけばヘルプデスクの仕事はなくなるかな?」
「ヘルプデスクの仕事を続けたいけど、今後はどんなスキルが必要かな?」
「ヘルプデスクにAIを導入することが決まったけど、注意しないといけないことは?」
ユーザーの問題解決をサポートするヘルプデスクは、人手不足や属人化などによる影響で、さまざまな課題が発生している現場も見られます。そこで近年では、AIを活用してヘルプデスクの業務負荷を軽減する企業も見られるようになりました。
具体的には、問い合わせ対応の自動化や、ナレッジを蓄積することによる属人化の防止などをAIで行っています。
人間が行う作業が減ると「ヘルプデスクの仕事に将来性は無いのかな?」と不安に思うこともあるでしょう。実際にAIを導入したことで、ヘルプデスクの人員を削減した企業があることが事実です。
しかし、現段階でのAIはあくまでも業務の補助ツールであるため、完全に人間の代わりにはなりません。AIにはない人間ならではの強みを発揮することで、この先もヘルプデスクの現場で重宝されるでしょう。
そこでこの記事では、ヘルプデスクの業務に4年以上従事した筆者が以下の内容について解説します。
- ヘルプデスクの将来性
- ヘルプデスクにAIが導入するメリット
- ヘルプデスクにAIが導入する注意点
- これからのヘルプデスクに求められるスキル
実際にAIが導入されたヘルプデスクに従事したことのある体験談を踏まえて解説します。AIが導入されたことによって、ヘルプデスクの仕事の将来性に不安を感じている方は、ぜひ最後までお読みください。
ヘルプデスクはユーザーの問題解決をサポートする部門

ヘルプデスクとは顧客や社内からの問い合わせ対応の窓口で、不明点やトラブルなどを解消する部門です。
ヘルプデスクは大きく2つに分けられて、顧客からの問い合わせに対応する「社外ヘルプデスク」と、社内からの問い合わせに対応する「社内ヘルプデスク」があります。
業務内容として具体的には、エンドユーザーからシステムの技術面やトラブルなど、窓口に届く問い合わせに対応する仕事を指します。パソコンの初期設定から、複雑なシステムトラブルへの対応まで、幅広い業務に携わります。
内容によっては、トラブルの発生状況や内容をヒアリングして、解決策を分かりやすく説明することが必要です。ユーザーの悩みを解決できると利用者の満足度が向上し、製品やサービスだけでなく企業や社員のイメージも向上します。
システムにトラブルが発生している状況やデバイスなどの使い方が分からないままでは、業務の停滞を招きかねません。企業の生産性を向上させ業務を円滑に進められるようにするためにも、ヘルプデスクはとても重要な役割を担っています。
AIが発展してもヘルプデスクはなくならない

AI技術がどれだけ進歩しても、ヘルプデスクの仕事が完全になくなる可能性は低いと言えるでしょう。
AI技術の発展は、多くの業界に変化をもたらしています。一部の業務がAIに代替される可能性はありますが、ヘルプデスク業務のすべてがAIに取って代わられるのはまだ先の話でしょう。また、AIによる対応は、質問する側のスキルを持っていなければ、うまく機能しない場合が多いです。
例えば、音声認識や自動翻訳の技術は飛躍的に向上しました。しかし、通訳者や翻訳者の仕事がなくなっていません。ヘルプデスクも同様に、対人関係の仕事をAIだけで完結させることは困難でしょう。
将棋や囲碁などのように明確なルールがあり、そこから逸脱しないものに対してAIは非常に効果的です。ヘルプデスク業務は、決まったルール通りに進まないことが多く、AIでは対応しきれない判断が求められることがあります。
相手の状況やITリテラシーなどが多様であり、定型的な対応だけでは解決しない場面が少なくありません。AIによる対応には限界があります。現状では、ヘルプデスクを無くせるほどの対応は不可能でしょう。
ヘルプデスクにAIが導入されたことによる5つのメリット

ここでは、AIがヘルプデスクに導入されたことによって得られるメリットを5つ紹介します。
- コストが削減できる
- 負担軽減ができる
- 対応の時間を選ばない
- 質問時の心理的ハードルが下がる
- 属人化を防げる
実体験に基づいて感じ取ったメリットを紹介しています。ぜひ参考にしてみて下さい。
1. コストが削減できる
AIをヘルプデスクに活用すれば、コストの削減を図れます。
ヘルプデスクの運営には、一定数のスタッフが必要です。人が対応する際は、問い合わせ件数の負荷に合わせて人員を調整する必要があります。件数が増えて負荷が上がれば、人員を増やさなければ長時間労働は避けられません。
AIを活用することで、従来は人がおこなっていた業務の一部を任せられます。ヘルプデスク運営に必要な人数を減らせるため、人件費の抑制につながるでしょう。
さらに、1人あたりの負担が軽くなり時間作業を減らせれば、残業時間の削減も期待できます。人件費の負担が大きい企業にとって、AIによるコスト削減はとても大きなメリットと言えるでしょう。
2. 負担軽減ができる
AIを活用することで、ヘルプデスク業務の中でも特に単純な作業を自動化できます。
ヘルプデスクの業務では、同じような質問が繰り返されることがあります。人が対応する場合は、単純な質問であっても1つずつ回答しなければなりません。ヘルプデスクにAIを導入すれば、単純な質問への回答や問い合わせの一次受付を自動化できます。
例えば、認証系のシステムの場合、パスワードを複数回間違えたことでアカウントロックされてしまう事があります。ロック解除の際に窓口での対応が必要になるフローの場合、類似する問い合わせは多くなるでしょう。
定型的な問い合わせ対応をAIができるようになることで、担当者はより専門知識が必要で複雑な問題の解決に集中できます。業務量が多い職場では、対応漏れや確認ミスを減らす効果も見込めます。現場のストレスを軽減し、効率よく業務を進める観点でも、AIの活用は有効です。
担当者の業務負荷が軽減され、精神的な余裕も生まれやすくなるでしょう。
3. 対応の時間を選ばない
AIは時間を選ばず回答できるため、対応力の向上が見込めます。
人が対応する場合、通常はヘルプデスクの営業時間内に限られます。そのため、質問者が夜間や休日に問題に直面した場合、解決策を得るまでに時間がかかってしまうケースが多いです。しかし、AIは24時間365日稼働し続けられるため、時間帯を問わず問い合わせに対応できます。
特に、年末年始やゴールデンウィークなどの大型連休中に問題が発生した場合、次の営業日まで1週間以上空く場合もあります。問題が発生している状態で一次回答もない状況が続くと、質問者としては不安な気持ちを抱くでしょう。AIが一次回答を行ったり、基本的な対応方法を提示したりできれば、質問者の不安は和らげられる可能性があります。
AIは時間を選ばず対応できるため、顧客満足度の向上も期待できるでしょう。
4. 質問時の心理的ハードルが下がる
ヘルプデスクにAIを導入することで、人に直接聞くより気軽に質問できます。
ヘルプデスクへ問い合わせを行う際は、メールや電話で行うことが一般的です。人によってはメールや電話での連絡に、心理的なハードルがある場合があるでしょう。
単純な質問であれば「こんなことを聞いて迷惑ではないか」と感じる人もおられます。さらに、担当窓口が違っていれば再度問い合わせが必要になり、質問者側に恥ずかしさを感じさせてしまうこともあります。
AIであれば、チャット形式で入力することが一般的です。「事象をうまく説明できるだろうか」と不安を感じている場合であっても、曖昧な質問文で関連の事象を検索して回答してくれます。
人に直接聞かずに済むため、メールや電話に抵抗を感じる人でも、気軽に質問できるでしょう。また、問い合わせ先を間違えた場合でも、AIが適切な窓口を案内してくれる可能性があります。
人に直接聞かなくても解決策を得られることは、問い合わせに抵抗を感じる人にとっては非常に大きなメリットです。AIが質問内容に応じて適切な窓口を紹介してくれれば、質問者側のミスを減らしスムーズな問題解決につながります。
5. 属人化を防げる
ヘルプデスク業務における属人化を防げる点も、AIを導入するメリットです。
ヘルプデスクの業務では、担当者の経験や知識に頼った対応が行われるケースがあります。知識やノウハウが職場内で偏ってしまうと、特定の担当者がいないと解決できない問題が発生し、業務が属人化してしまいます。特定の従業員しか対応できない業務が多くなると、その従業員が不在の場合に仕事が停滞してしまうでしょう。
AIを導入しFAQやナレッジベースと連携させれば、担当者の経験に関係なく一定レベルの対応を行ってくれます。AIが蓄積した知識は組織の共有財産となるため、個人の経験や感覚に依存せず、誰でも一定水準の対応が可能です。
AIを活用することで、担当者の経験年数や知識レベルに関わらず、一定水準の対応品質を保てます。安定したサービスを維持しやすくなり、組織的な対応力の強化につながるでしょう。
ヘルプデスクにAIが導入されたことによる4つの注意点

ヘルプデスクにAIを活用することで得られるメリットは大きいです。その反面注意点があることも事実です。ここでは、ヘルプデスクにAIを導入することで注意しないといけないことを3つ紹介します。
- 定期的なメンテナンスが必要
- 誤った情報を出してしまう時がある
- 情報漏洩の対策が必要
- 複雑な問い合わせや質問への対応が難しい
場合によってはユーザーからのクレームの原因になることもあるので、ここで記載している内容に注意が必要です。それぞれ詳しく見ていきます。
1. 定期的なメンテナンスが必要
AIは学習データに基づいて回答するため、常に最新の情報を提供できるように定期的にメンテナンスする必要があります。
AIは過去に学習させたデータに基づいて回答や判断をおこなうため、情報が古いままだと誤った対応につながる可能性があります。また、学習データに誤りがあった場合、更新しなければ間違った内容を提示してしまうでしょう。AIの回答精度を維持するためには、定期的なチューニングや改善作業が必要です。
例えば、社内ルールが変更されたにもかかわらず、AIの学習データが更新されていない場合、誤った回答をしてしまうでしょう。情報が古く誤った対応をしてしまった場合、質問者を混乱させることにつながってしまいます。
製品やサービスの仕様変更やルール改正などが発生した場合には、速やかにAIの学習データを更新する必要があります。AIは導入して終わりではなく、定期的なメンテナンスや学習データの更新が必要です。
2. 誤った情報を出してしまう時がある
AIは誤った情報を生成してしまう可能性があります。
AI技術は大きく進歩しましたが、出力された回答が常に100%正しいとは限りません。ハルシネーションと呼ばれる事実とは異なる情報を出力してしまう現象で、現在のAI技術では完全に防ぐ方法はありません。
また、学習データ自体は正しくても、AIが複雑な質問の意図を誤解してしまうと、誤った回答を生成してしまうこともあります。
例えば、AIに「Windowsで使える動画編集ソフトのおすすめを2つ教えてください」と聞いたとします。回答として「Adobe Premiere ProとFinal Cut Proです」と返ってくるかもしれません。しかし、Final Cut Proは基本的にWindowsでは使えません。一例ではありますが、事実とは異なる情報を出力してしまうことがあります。
AIが提示してしまった誤った情報を信じて質問者が行動した場合、予期せぬトラブルやクレームに発展するリスクがあるでしょう。ハルシネーションを完全に防ぐ方法は見つかっていないため、事前に誤った回答をしてしまうリスクを認識しておく必要があります。
3. 情報漏洩の対策が必要
機密情報をAIが学習すると、情報が外部に漏えいするリスクがあります。
ヘルプデスクでは、企業や顧客の機密情報など、慎重な取り扱いが必要なデータに触れる機会が多いです。
機密情報が外部に出ると企業の信用が失われる恐れがあるため、絶対に起こしてはならない問題です。データの暗号化やアクセス制限など、セキュリティ対策を講じることが重要です。
なた、AIのデータにメンテナンスを行う際は、機密情報を学習させないように注意しましょう。特に、自社独自の内容を学習させている場合、AIの回答内容から機密情報の漏えいにつながる可能性があります。
4. 複雑な問い合わせや質問への対応が難しい
AIは複雑な問い合わせや、学習データにないイレギュラーな質問への対応が苦手です。
AIは事前に学習させたデータに基づいて回答を生成します。そのため、複雑な質問や学習データにない質問への対応は困難です。感情に寄り添う必要がある場面や、状況に応じた柔軟な判断が求められるケースは、AIではなく人の方が適していることも多いでしょう。
例えば、予期せぬ障害が発生した場合や、新しく導入された社内制度の不明点など、リアルタイム性が求められるような内容にAIは不向きです。AIが答えられない内容は、人間のオペレーターへの引き継ぎやエスカレーションでの対応が必要です。
AIでは対応しきれない問い合わせが届いた場合、スムーズに人間のオペレーターに引き継ぐ体制を整えておくことが重要と言えるでしょう。AIと人がそれぞれの強みを発揮して互いの弱点を補完することで、より質の高いヘルプデスクサービスを提供できます。
これからのヘルプデスクに求められるスキル3選

AIがヘルプデスクに導入されれば業務の効率化がされるので、今まで以上に人間ならではの価値提供が必要です。ここでは、これからのヘルプデスクに必要なスキルを3つ紹介します。
- チームワーク
- コミュニケーション能力
- トラブルシューティング能力
ヘルプデスクに従事している人は、ここで紹介するスキルを磨いていきましょう。
1. チームワーク
AI時代においても、ヘルプデスク業務を円滑に進めるためには、チームワークが欠かせません。
AIが単純な問い合わせをできるようになれば、人間のオペレーターはより複雑で難しい内容の対応をすることになるでしょう。複雑な問題の解決には、個人の知識や経験だけでは対応しきれないケースが増えます。
AIが発達していくことで、チームの内部のメンバーや各部門の人との連携がより必要になっていくでしょう。関係者との連携はAIでは難しいため、今後のヘルプデスクの運用の際にはチームワークの重要性は増していくと考えられます。
例えば、システムに障害が発生した際、情報を入手し迅速に対応できるのは人間のオペレーターです。人間のオペレーターが担当部門とコミュニケーションを取り合い、状況を把握して広報する必要があります。
状況に応じて各部門と連携を取り合うことは、人間ならではの強みです。AIにはできないことが、今後のヘルプデスクではさらに求められるでしょう。また、自分が解決した特殊なケースをチーム全体で学びを共有することで、サポート品質の向上につながります。
2. コミュニケーション能力
問い合わせ相手が本当に求めていることを的確に理解するためのコミュニケーション能力が不可欠です。
問い合わせをしてくる人の多くは、トラブルや疑問を抱えて不安な状態にあるでしょう。問い合わせ内容から、相手が本当に求めていることを背景や感情も含めて理解する姿勢が必要です。
例えば「システムの動作が遅い」という問い合わせがあったとします。単純に速度の問題と捉えるのではなく「納期に間に合わないことへの焦り」や「仕事の生産性低下に対する不満」など、本質的な問題を見抜く力が重要です。
適切な質問をして、真の課題を特定できる人間のコミュニケーション能力は、AIには代替できません。
AIはキーワードや質問のパターンから回答を提示できますが、言葉の裏にある感情は汲み取れません。人の気持ちに寄り添い、相手の立場で考える力は人間だからこそできることです。AIが発達していくと、人間ならではのコミュニケーション能力はさらに重要になっていくでしょう。
3. トラブルシューティング能力
問題の本質を見抜き、根本的な解決策を導き出すトラブルシューティング能力は、AIがどれだけ進化しても必要なスキルです。
AIは膨大な情報の中から関連性の高い内容を素早く検索したり、過去の類似の事例から分析したりすることで、問題解決を支援できます。しかし、複雑な問い合わせであればAIのみで対応することは困難です。
難しい内容の問い合わせが届いた場合、問題の原因を特定し最適な解決策を導き出すのは人間の役割です。
例えば、Teamsのアプリに急にログインできなくなったと連絡を受けたとします。この場合、Teamsのアプリ側か、アカウント側のどちらかに問題がある可能性が高いでしょう。また、アカウント側の問題であったとしても、利用環境によっては特有のロックがかかっていることが原因かもしれません。
起きているエラーは1つであっても、原因となっている場所は複数ある可能性があります。原因が複数個所ある場合は、正しい手順で1つずつ対応が必要になるケースが多いです。
システムやアカウントの状況など、問題が発生している原因を特定し、最適な解決策を回答する必要があります。原因が複雑になっている場合、AIだけでは解決策を導き出すことは難しいです。
問題を根本から解決に導くトラブルシューティング能力は、これからもヘルプデスク担当者に必要なスキルと言えるでしょう。
ヘルプデスクの仕事はAIだけでの完結は難しい

AIの進化により「ヘルプデスクの仕事はなくなるのでは?」と不安を感じている方も多いかもしれません。
確かにAIの導入で問い合わせ対応の自動化が進み、一部の業務は効率化されています。しかし、複雑な問題への対応や人間らしい気配りは、AIにはできない領域です。
これからのヘルプデスクには、コミュニケーション能力やトラブルシューティング能力などの「人間ならではの強み」がより一層求められます。
AIの登場を脅威と捉えるのではなくパートナーとして活用し、ヘルプデスク業務のさらなる価値向上に務めましょう。また、AIによる業務効率化を自身のスキルアップの機会と捉え、これからの時代に必要とされるオペレーターを目指すことも重要です。